フードデリバリー業の今後の展望(配達員目線)

2022年9月23日

UberEatsは既に古株となり、出前館を急先鋒として群雄割拠状態となっているフードデリバリー業界。それに加え青色申告特別控除の除外やインボイス制度の導入と、配達員はその動向に翻弄され成す術はない。

繁忙期と閑散期の差

この業種の一番の問題点は繁忙期と閑散期で注文数の格差が激しい事だ。この点が労働者流入における最大の障壁となるだろう。現状では繁忙期の労働者数がやや不足しており、閑散期には大いに余っている。

だが例え時給が最低時給を下回っても、その半額以下だったとしてもこの仕事しかやらない、諸事情で出来ない労働者層は確実に存在し、この労働供給量を市場が消費する事は終ぞや来ないと感じる。よって委託元各社はこの問題になんら対策を取る事もしないし、今後も繁忙期の訪れと供に配達員の増員企図に終始するだろう。

よってこの問題における対策の手立てとは、配達員側の意識でもって働き方を変える事でしか成し得ないだろう。繁忙期と閑散期の存在を意識し、時期ごとに収入の手段を変えられるように備える必要がある。

同業種乱立による弊害

フードデリバリー業はユーザー数を着実に伸ばしてきている。だがこれが配達員の待遇改善に繋がるかは別の話だ。今年の夏を無事に乗り切った事、配達員の収益はそれ程変わらない事から、ユーザー数の増加は配達員の増員数で吸収できる範囲内で収まっていると捉えられるからだ。

以前と比べるとUberEatsの1強状態が解消されつつあり、今では出前館との2強を形成している。その他のフードデリバリーサービスもユーザー数を伸ばしているが、その構造はUberEatsのシェアを奪う範囲内に留まる。業界4位と6位だったfoodpanda、DiDifoodが撤退し業界再編の機運も高まっているが、今後も数社でシェアを奪い合う流れが継続するだろう。

同業種が群雄割拠となるのはユーザー目線ではサービスの向上を期待できるが、配達員目線では働き方の自由度を阻害する要因となり得る。総合的なユーザー数に配達員の供給が対応する以上、配達員が以前の収益を確保するには複数業者の下請けとならざるを得なくなる。

各社によって用いるシステムが異なり、服装などの配達ルールも異なる事で、配達員はそれぞれのサービスにおいて別々の対応を並行して使い分けねばならない。例えば出前館帽やWoltカバンの規定、または早押し受諾システムなどが一例である。スマホを複数持ちする事によるコスト増もそうだ。

この手間暇に配達員が音を上げて激減すれば、各社システムの一本化、ルールの統一化などの動きも起きるだろうが、残念ながらそうはならないだろう。むしろ各社で特色を出すために、更なる規則の差別化が企図される事の方がありえる話だ。今後も委託元優位、ユーザー優先の傾向が強まっていくと言える。そうはならない、という要素が見当たらないからだ。

収入は減っていくか

使用する車両によってその行く末は大きく異なるだろう。配達員が増え続けているとはいえ、バイク稼働は経費やリスクが大きく、またベトナム人等の外国人労働者は免許の取得が大きなハードルとなる。そのためバイク配達員の増員ハードルは自転車配達員のそれと比ではない。よって今後は一層にバイク稼働を優遇する傾向が強まるはずだ。現状でも閑散期やピークタイム以外では自転車稼働での受注はかなり厳しいので、今後はバイクの稼働数が上がるに連れて自転車配達員が徐々にフェードアウトしていく結果になると思う。

だが通年で見た場合、バイク稼働でも安定した収入を得られない事も明白である。そのうえ専業となるとメリットである労働時間の自由度が犠牲になってしまう。仕事内容も面白味が少なく、売り上げは各委託元にコントロールされる上にリスクも小さくない。

繁忙期のみの副業として稼働するにしても問題は存在する。バイク稼働の年間運用コストがそれほど安くない点だ。特に業務用任意保険と燃料費は重い経費である。期間限定の副業とする場合、通年稼働するよりもこれら経費が150~400円ほど平均時給を押し下げるだろう。

このデメリットを許容できる労働者はそこまで多くない気がする。

今後はこの仕事を選んでするというよりは、他に選択肢が無い、またはしたい事もないという労働者の受け皿となるだろう。というか既になっている。または繁忙期のみ効率よく稼ぎ、閑散期には別の仕事をするという季節労働職の一つともなり得る。そういった労働層が日本社会にどの程度存在するのかが、この先数値として表れてくるだろう。それはそれで興味深い観察点であるが。

結局のところ専業としては

「収入は少なめ。だが他の仕事よりはまとまった休みがとりやすく、時間に少し融通の利く職種」

としての位置づけとなるように思う。

副業としては、

「通年で働くには向かないが、季節によって収入の足しにできる」

という役割は期待できる。

まとめ

現状からは以上のような予測が立てられる。労働者数に大きな転機が訪れるのは2023年の住民税納税期、つまり2023年6月以降となるだろう。青色申告特別控除の除外で副業としては大きな収入減となり、10月からはインボイス制度が導入されるためだ。こちらも導入後しばらくは純粋な収入減となるだろう。

住民税の納税期としたのはそれまで多くの配達員は収入減に気付かないと思われるからだ。2023年最初の閑散期突入で配達員が減り始め、9月の注文数激減と共に配達員も激減する。これが配達員の待遇アップの理想的なパターンであるが、これはかなり甘い観測と言わざる得ない。多少減少する事で短期間の待遇アップは期待できるが、長期的目線で今より労働環境が良くなる見立ては出来ない。良くて現状維持といったところだろうか。